>> ●「満月&絵本メイキングの日々」
セックスレス

2005年11月19日
 リョウの墓参りに行く。リョウの古い知り合いのKさんに連れられて、わたしたちゴールデン街仲間は結婚式にでも行くような大きな花束を抱えて会いに行った。

 平成17年3月21日没と石碑に刻まれている。けれど、一人暮らしのリョウが発見されたのは、4月をずいぶん過ぎてからだった。
 携帯に出なくなったリョウを心配して、合い鍵を持つ幼なじみが様子を見に行き、風呂場で倒れているのを発見した。遺体はかなり酷い状態になってしまっていたそうだ。
 死因は心不全。喘息を持っていたので、そのための事故死と推測されていた。

 石碑には確かにリョウの名前が刻まれているのだが、遺体があるわけでもなく、今更リョウが話をしてくれるわけでもないので、どうしても実感が湧かない。だいたい心不全って、どうやって死んでも最後は心不全なんだし…。
 釈然としないわたしたちはそのままゴールデン街に帰り、いつもは行かない店へ行き、Kさんからしつこく話を聞き出した。

 リョウは自宅療養しながら精神科にも通っていて、冬にはもっと自分に合うところをとKさんが紹介した病院へ転院し、そこがリョウのフィーリングに合っていたようで調子は上向きだった。
 3月の始めにKさんはリョウから「仕事が決まって働くんだ」という電話を貰う。ところが3日後、「クビになりました。わたしって、ダメかな?」というメールを貰う。「そんなことないよ」と、Kさんは励ましのメールを送った。それが最後の通信になった。

 クビになったことをきっかけに、なんとなくネガティブにハマるのは想像できるし、約一年は仕事もせず自宅療養していたのだから、身体的にかなり衰弱していたことも想像がつく。
 身体が弱れば心も弱る…だから、散歩に連れ出したんだけど…。他のみんなも同様にリョウを連れ出してはいたんだけど…。何が足りないのかといわれれば、セックス! できれば愛のあるセックス! なくても年相応のセックス!
 覇気が無いはず無い人が、覇気を失くしている。生の息吹を取り戻すために必要なものはセックス! セックスは命の洗濯! と思うわたしたちって、馬鹿? 馬鹿でもわたしならやるよ。

 リョウに足りないものは強いていうなら母親の愛だが、これは不可能だし。関係を持とうとすれば、リョウのPTSDが悪化する。リョウは第二の母を模索してもいたが、期待するたびにいつか裏切られた。現実が酷いぶん理想が高くなったのかもしれない。大人の女や母親のモデルケースを探し出すことに、失敗していたともいえる。
 もしもわたしにもそんな期待をしていたのなら、可哀想なことをしてしまった。わたしは出来の悪い姉であって、母じゃない。それでも、抱き締めてあげることならいつだって出来たけれど、それを拒否してるのは、寧ろリョウの賢さだった。
 そんな風に女性に心を開くことに、リョウは慣れていなかったのかもしれないが…。

 成長してリョウは家出した母の変わりに家を切り盛りしていた時期があるが、父親の愛を憎い母に譲って自分が家を出た。父親が母親を求めていることを悟ったからだ。
 けれど、そんな気持を知らない両親は、当然リョウに感謝したりはしない。家族が他県へ引っ越しても、ハガキが一枚届いただけだった。リョウの中で愛が少しずつ終わっていった。その後、父親の死をきっかけにPTSDに傾いていった。退行したのだ。
 どうして男たちは、リョウが大人になっていて、暴力なんて怖くなくなっていることを思い出させられなかったんだろう?

 話の焦点は必然、Hとの関係になる。みんなの記憶を総合すると、Hとはやはりその後も順調に進んでいたらしい。二人はあくまで幸せそうだったという。けれど、セックスには到っていなかったのだろう。すべてはこれからだったと…ソウカナ?
 少なくとも「病気だから会いに来て」という関係ではなかった。連絡が無いから様子を見に行くという関係でもなかった…そして、他の男達はHに遠慮していた…わたし自身、退院したのが3月20日だったので、21日あたりはリョウに連絡しなくちゃと思ってはいた。あれは虫の知らせだったのか。でも、何もできない状況だったから、Hを思い出して「大丈夫だろう」とその考えをうち消した。
 リョウはそのうちHと結婚して幸せになるとみんなが信じて疑っていなかった。そして、電話やメールが途絶えても、そのうちまたヒョッコリ出てくると、信じて疑ってはいなかったのだ。

 くどくどくどくど、話しても話しても、残されたものたちは、リョウを生に縛り付ける何かになれなかったことに、腹が立つばかり…結局、朝まで呑んでしまう。

 わたしはリョウに生きていく希望を与えられなかったことを悔いたのだが、本当に教えなければいけなかったことは、なんだったんだろう?
 Hとは一年はつきあった。でも、一人で死んだ。看病もされなかった。生きる気力も湧かなかった。何故だ?
 大人の男と女が一年つきあってセックスしないのも異常だが、セックスはどちらかが求めなければ出来ないのも事実なのだ。そして、お互い頑張らなければ、続かないものだ。
 巷にもこのサイトにも、夫婦でも恋人でもセックスレスは大量にいる。
 人がセックスしようがしまいがわたしには何の関係もないが、頑張れない出会いに意味なんてない。走り出せない恋愛なんて、恋愛じゃない。人生に意味を持たせない恋愛なんて、ゴミだ。
 傷つきたくない女と傷つけたくない男に何ができる! 何が癒しだ! 恋愛なんて、いつだって血みどろさ! エゴとエゴの血みどろぶつかりあいを知性と理性と愛情で洗練するから素晴らしいんだよ。血みどろがなければ、ただの遊技じゃないか。

 リョウは「セックスが気持悪い」とわたしにいった。「できない」ともいった。そしてそのまま死んだ。
 わたしはリョウが処女のまま死んでたらどうしよう?と馬鹿な心配までしたのだが、Kさんの話ではそうではなかったらしい。M癖があるので、「Kさんはやさしいからそういう性の嗜好が合わない」といわれたことがあるそうだ。
 やられた! M癖から「できない」までの間に何があったのか。そいつを聞きださなきゃいけなかった。
 いつだって、性は人を語るよ。満月先生、なにやってんの?

 子供の頃から苦労してきたリョウは、ある面とても大人だった。あの娘にとって、恋とはなんだったんだろう?
 「愛人になろうと思った」といわれて「それは職業じゃないでしょ」と諭した自分の善人さ加減が、今更ながら嫌になってくる。
 リョウは、子供の頃の自分の窮状を簡単に救えるような強い男に甘えたかったのだ。そしてリョウの両親は恐らくSMだったのだから…。

 馬鹿野郎! 愛人になりたいなら、なっておきやがれ! なってから悩みやがれ! SMならSMをやりやがれ! 馬鹿なら馬鹿になりやがれ! それしか未来を描けなかった自分を悔いるなら、勉強しろ!

 やたらに虚しい。いつだって、時間は逆回りしないのさ。

2005年11月22日
 久しぶりにお散歩。夕方なので、あまり写真が撮れない。

 リョウの墓参りに行ったり、この間会ったばかりの唯尼庵のキヨさんが亡くなったりと、心中慌ただしく、静寂を求めているはずが、同じ距離を歩いても朝ほど清々しい気分にはならない。
 やっぱり、散歩は朝するのがいいのだと実感。
 
 この間、シーフードドリアを食べたお店に行こうと思ったけれど、見つからないので諦めた。わたしは方向音痴!      ろくでもない一日、そういう日もあるか…。

 ニャアと何度も挨拶してくれたので、お友達になる。
 二週間前に見かけたときは、交尾の真っ最中だったんだけど、もう妊婦さん?
 ネコは分かり易くて良いな。目的もやり方もハッキリしている。
 人間は、モラルだ、てらいだ、見栄だ、経済だ…そういうものをどけてみる目が要るんだろうが…ああそうかキヨ
さんは死んじゃったのか…ゴールデン街の星がまた一つ消えていくな。
 あの日もキヨさんはライターのNに説教していて(Nは集中砲火を浴びる日だったのね)それを隣で聞きながら、こういう人が生き残っているなら、まだ大丈夫!と、かなり励まされて帰ってきたのだ。

 「わたしは10回も結婚して離婚した人格破綻者だからね、もう籍は入れないのよ」が決まり文句だった破天荒なキヨさんの説教は、いつも目から鱗が落ちた…。

 ありがとうございました。そして、お疲れさまでした。
 謹んでご冥福をお祈りします。

2005年11月23日
 休日なのでのらくら出かける。結果は11キロも歩いてしまった。
 
 家の裏手の桜並木。春の桜は大好きだけれど、桜が秋にもこんなに目を楽しませてくれるとは、散歩するようになるまで知らなかった。

 いろんな人が死んでいくので、わたしは生きていることを楽しもうと思う。

 写真を撮ることを覚えたら、わたしは生きているんだと思うようになった。
 世界は生きていて、光を浴びている。
 当たり前のことだけれど…つい忘れる。
 わたしだって、いづれは死ぬ。
 それはそんなに怖くもない。
 リョウだって、いいところで安らかに眠っているに違いない。
 死なんて、名前もないこのカルガモたちの中の一匹が死ぬのと、同じことだ。

 生きていくことの方が、遙かに勇気がいる。

 なぜだろう? こんな風に考えるのは、入院したせいかもしれないが…。

 勇気はいるけれど、毎日、新しい自分を見いだしながら、歩いていきたい。
 せっかく、こんなに美しい世界にいるのだから…。

そして、恋をする。愛を語る。
 愛を得ようとするにも勇気はいるが、そのときめきを手放したくない。
 わたしは先生、セックス大好き!
 気のすむまで歩いたら、夕日が空を染めていた。


 

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